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京都家庭裁判所 昭和61年(家)3338号 審判

申立人 竹田守

主文

本籍京都市左京区○○○○○町××番の×筆頭者竹田守の戸籍中、筆頭者守の身分事項欄に記載された徐張仁との養子縁組事項を全部消除することを許可する。

理由

第1申立ての趣旨と理由の要旨

1  申立ての趣旨

主文と同旨

2  申立て理由の要旨

申立人は妻林悠華(中国籍)とともに昭和54年7月3日に両名の孫である徐張仁(中国籍)を養子とする縁組届を大阪府池田市役所に提出して受理され、申立人の戸籍にその旨記載されているが、この度上記林悠華の日本国籍取得のための帰化申請手続きをしたところ、法務局より上記養子縁組は無効であり、これが戸籍の訂正方を指示されたので、本申立てに及んだ。

第2当裁判所の判断

1  一件記録によれば、次の事実が認められる。

(1)  申立人(大正3年5月11日生)は昭和19年頃から台湾で内縁関係にあつた林悠華(大正12年7月19日生)と昭和38年10月24日婚姻したが、その間に長女林雪清(昭和21年5月18日生)と長男志智(昭和32年3月21日生)を儲けており、同長女は昭和44年頃台北市に戸籍を有する徐文和と結婚し、その間に徐張仁(昭和45年7月26日生)が出生している。

(2)  申立人は妻の林悠華を昭和50年3月頃台湾から日本に同伴して以来、同夫婦は日本国内で生活を営み、昭和52年には長男志智を台湾から日本に呼び寄せ、翌55年に同人の日本国籍への帰化が認められたが、申立人としては、依然台湾に居住する長女夫婦の子で申立人夫婦の孫に当る徐張仁のことを気にかけ、将来同人を日本に呼び寄せ、永住許可や帰化の許可を得るのに有利でないかと考え、同人の父母と協議のうえ、同徐張仁を申立人夫婦の養子とすることとし、昭和54年7月3日大阪府池田市役所に同縁組届を提出した結果、申立人の戸籍の身分事項欄に同養子縁組事項が登載されるに至つた。しかし、申立人は、従来から台湾では一般的に孫を養子とすることを禁じられていることの認識があつたので、台湾の徐張仁の戸籍役場へは意識的にその養子縁組の届出はしなかつた。

(3)  上記縁組当時、台湾で施行されていた中華民国民法には孫を養子とすることを禁ずる明文の規定はなかつたが、従来からそのような縁組は慣習的に違法とされ(台湾の慣習上、世代の序次を正すため、孫を養子にはできない旨の大正10年2月14日控訴審判決がある。)、民国49年(昭和35年)9月30日の中華民国最高法院判決においても、台湾においては古来世代と長幼の序列の倫理秩序上直系血族間の縁組は容認されず、その養子縁組は無効とする旨の判決がなされており、慣習法的にも判例法上も祖父母と孫との養子縁組は禁忌とされていた。(ちなみに、その後改正された現行の中華民国民法(民国74年6月3日公布)1073条の1において、直系血族間の養子縁組を禁止する旨が明規されている。)

(4)  申立人の妻林悠華が昭和60年夏頃日本への帰化申請書を大阪地方法務局に提出したところ、法務省国籍課から上記養子縁組は無効のものであり、夫である申立人の戸籍を訂正する要がある旨の指示がなされたので、申立人において本申立てに及んだ。

(5)  上記林悠華及び徐張仁(台北市在住)は、いずれも台湾で出生し、これまで中国本土とは何らの関係も有しないものであること。

2  ところで、我が国法例19条1項によれば、養子縁組の要件の準拠法は各当事者の本国法によることになるが、日本国民法では祖父母と孫との養子縁組は何ら制限されていないから、上記縁組において申立人の養親としての要件には別段の支障はないものの、日本国民でない養母の林悠華及び養子の徐張仁についての実質的要件の準拠法はその本国法である中華民国民法による(同両名は中国籍であることから、我が国が承認している政府の法律として中華人民共和国の法律を適用すべきではあるが、上記認定のように、同人らはいずれも台湾で出生し、徐張仁は現に台北市に居住し中華民国の法のもとで生活を営んでおり、いずれもこれまで中華人民共和国との接触は全くないものであるから、その全生活関係を考慮し、法例27条3項の規定を類推適用すれば、本件のような渉外的私生活関係においては現実に台湾で施行されている中華民国法を適用するのが相当である。)べきところ、その縁組の届出がなされた昭和54年7月3日当時、台湾において祖父母が孫を養子とすることを禁じられていたことは、上記認定のように、明文はないが慣習法上も判例法上も定立していたものであるから、この点において実の祖父母である申立人夫婦とその直系血族の孫である徐張仁との上記縁組は無効のものといわねばならない。

3  そうすると、申立人の戸籍の同人の身分事項欄中、同人夫婦と孫の徐張仁との養子縁組事項の記載は違法のものであるから、これが記載の消除を求める本件申立ては理由があるものとして、これを容認することとし、戸籍法113条により、主文のとおり審判する。

(家事審判官 土井仁臣)

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